コンピュータで医薬品をデザインする
医薬品(ドラッグ)は古代から人類にとって様々な疾患と戦うために不可欠の武器です。しかし、このドラッグを論理的に探索・デザインすることが可能になったのはごく最近のことです。ここでもタンパク質や遺伝子の情報を解析する手段が必須の方法となっています。この研究室では、データサイエンス・バイオインフォマティクスの方法論やデータベースを開発することで、医薬品の開発を基礎から支援するための研究を行っています(創薬等プラットフォーム事業 BINDS)。
生薬(ナチュラルドラッグ)の応用
古来から経験的に医薬品として用いられてきた生薬の中には実際に効果をもつものがあり、いくつかは近代的な医薬品として応用されています。そこでこの研究室では、生薬にもとづいたドラッグデザインに着目し、奈良先端大学院大学との共同研究を進めています。
最近の成果として、生薬ウコンの有効成分であるクルクミンやその誘導体(類似構造をもつ分子)の分子構造と抗がん活性の相関を、ドッキングシミュレーションやPCA(主成分)分析で解析した結果を報告しました(Sci Rep 2019, Molecules 2019)。
疾患関連タンパク質構造の研究
狂牛病・クロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)は神経細胞の細胞死から認知機能・運動機能の低下を経て死に至る重篤な疾患で、まだ有効な治療法が発見されていません。この疾患はウイルスなどの病原体ではなく、プリオン(PrPc)というヒトの体内に普通に存在するタンパク質の構造が変化(PrPSc)することによって起こる「フォールド病」であることが知られています。しかし、疾患原因とされるPrPScの立体構造はまだ解明されていません。この研究室では東北大学との共同研究で、PrPの網羅的変異実験の結果を、計算機ででモデリングしたいくつかのPrPSc構造上で評価することで、新規のPrPScモデル(BH4)を提唱しました(Structure 2014)。
2020年に大きな社会問題となった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対処するために、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のタンパク質構造と、既知のドラッグの複合体構造の計算機モデリングを行い結果を報告しました(FEBS Lett 2020, BSM-Arc, BINDS-HP)。
さらに、この研究室で開発したデータベースを用いてドラッグスクリーニングを支援することで、COVID-19に有効な2つの既存薬の発見に寄与しました(プレスリリース2020)。
疾患-ドラッグのネットワーク解析
ヒトの様々な疾患・その疾患の原因となるタンパク質・既存のドラッグ・そのドラッグのターゲットとなるタンパク質の情報蓄積は急速に進んでいますが、それらはとても複雑なネットワークを形成していて、一目でドラッグと疾患の関係性を理解することは不可能です。このような場合、データサイエンス・バイオインフォマティクスによる解析が必要になります。この研究室ではDTX(Drug Target Excavator)というデータベースシステムを構築するすることで、新たなドラッグターゲットを論理的に発見する方法の研究を行っています。